杉能舎の釜場ギャラリー 2023

明治三年から続く、創業150 年の歴史ある酒蔵(杉能舎)の店舗奥にある老朽化した旧倉庫の解体と新倉庫の新築にあわせて、新倉庫内一部に約30㎡の試飲室を作り、その内装設計を行うのが計画の与件であった。

店舗出入口の突き当たりの間口1.5 間の壁と建具を撤去し、その先に試飲室を配置することで、店舗機能に奥行きをもたらした。昭和時代まで旧倉庫が釜場として稼働していた歴史的背景から、倉庫内に眠っていた「釜」を掘り起こし、試飲室の中央に据えることとした。「釜」上部にガラス天板、側に木天板を設置することで、試飲スペース中央のテーブルとして再活用した。地上に出た「釜」のボリュームは店舗奥のアイキャッチとなると同時に、照明器具として計画した。具体的には、釜内部上端外周にテープライトを設置し、釜内部を明るく照らしつつ、釜底部の曲面形状にバウンドした光を天井面に優しく当てることを試みた。柔らかな光を当てた天井は蒸米の台(さな)用の竹を組み合わせたものであり、当時の職人の手仕事の跡が残ったものである。

樽板腰壁、酒袋縫い合わせ暖簾、砕き既存瓦敷、菰型押し土間コンクリート、既存太鼓梁の長椅子など、内装材の大部分を旧倉庫内に保管されていた酒造りの古い道具や古材、解体する建材を用いて設えることで、連続する既存店舗空間とも馴染ませている。試飲用途の部屋ではあるが、歴史の蓄積を感じることのできるマテリアルを多用したこの空間は、酒蔵の小さなミュージアムのようなものである。展示機能を追加するべく、プロジェクターを設置し、投影部分の壁面のみ新規の材料として漆喰を塗装した。古い樽板で作られた奥行70mm の腰壁は写真やパネルなどを立てかけることもできるように設え、地域に開かれたギャラリーとして地域の人々も利用可能な計画とした。

蒸米台(さな)用の竹を組み合わせた天井材は、東西方向への風向が多い地域特有の風を店舗入口から取り込み、ギャラリーの竹天井を介して外部へと抜く環境計画の一部にも貢献する。

小さな内装計画であるが、酒蔵が育んできた歴史性、地域の外部環境、地域コミュニティと接続することに試み、地域循環の中にこの計画を位置づけた。

内装設計

所在地:福岡県福岡市西区元岡

竣工:2023年

用途:店舗

延床面積:30㎡

階数:1階

クライアント:浜地酒造(杉能舎)

施工:采建築社

構造設計(長椅子):BEYOND ENGINEERING/木村 洋介

照明計画:大光電機 TACT福岡 /星野 和博、益田 晃

縫製:井ノ上洋裁工房

環境シミュレーション協力:宮瀧 聡史(設計時 九州大学)

写真:YASHIRO PHOTO OFFICE

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